PKCという病気

 正確には私が本当にPKCかどうかは分からないが、とにかく私は自分の身体が思い通りにならないときがある。

 信号が青に変わった時。病院の待合室で名前を呼ばれた時。学生だった頃なら、50m走を走り出す時、テストを返却する際に名前を呼ばれた時。止まっている状態から動きはじめる時、ほんの数秒ではあるが私は自分の身体が制御できない場合がある

 動かないだけならまだいいが、たいていの場合私の身体は変な方向にグネグネ曲がり、顔が引き攣る。呂律も回らなくなる。

 二十一の時、ようやくこの病名を知った。それでも病院に行く勇気はなかった。なんとなく自分が受け入れられないのではないかと思ったからだ。自己診断する患者を嫌うのではないか、という偏見がある。お得意の被害妄想だ。だから今でも病院には行けていない。ただどの薬で治療されているのかはネットに書いてあったので、私はそれを個人輸入して飲んだ。症状はびっくりするほど抑えられた。この症状が出始めた小学四年生くらいの頃に薬を飲めていたら、私の人生はもっと変わっていたんじゃないかと思う。副作用として音が半音下がって聞こえる以外は満足していた。

 それからちょうど二年前くらいまでは薬を飲んで過ごした。三十以降に自然と寛解する原因不明の病気らしい。まだ三十にはなっていないが、だからだろう。当時は薬を飲まなくても症状が出ない日が続いていたので、薬を飲むのをやめていた。それが半年くらい前から、また出始めた。ストレスのせいだと思う。介護のせいというよりは、人間関係の悩みが大部分を占めると思う。

 それで昨日、この症状がまた外で出てしまうのではないかと不安になった私は、自己判断で薬を飲んだ。本当によくないと思う。ほかに飲んでいる薬がないならともかく、せめて昨日精神科の主治医にくらいは確認するべきだった。でも「診断は受けてないんですけど私PKCっていう病気だと思うんですよ、でその症状を抑えるためにこの薬を飲んだんですけど飲み合わせ的に大丈夫ですかね?」と喋っている私を想像したらとてつもなくキモかったし、死にたくなる。自分でも脳神経内科に行けよと思う。でも怖い。

 怖い、不安。私はそればっかりを言い訳にして生きている。

 半音下がった色々な生活音を聞く度に、心も身体も自分の思い通りにならないことが辛くなる。せめて私だけは私の思うよう動いてほしい。でもきっとそれは私だけの悩みではないんだろう。